美しいもの

美しいものを追いかけていたい http://twitter.com/kasg_wr

「あなたにはもったいない」

「かささぎさんにはもったいない」

何度か言われた言葉だ。

私は片田舎のあまり大きくない規模の職場に就職した。そんな私に何人かが言ってくれた言葉だ。あなたのような優秀な人間がそんなところで収まるのはもったいない、というニュアンスだと捉えていた。こう言ってくれた人たちは皆地元の人間で、つまり私が地元という小さな井戸の蛙だった頃の知り合いであるのだ。

井の中の蛙大海を知らず

まさにその通りだった。地元を離れ大海原に出た私は大して成績が良かったわけでもなくリーダーシップもなく人脈もなく、さらにうつ病になった。人生終わったのだ。自信もやる気も夢も消え失せた私のことを彼らがどの程度知っているのかなんて分からない。でも、私にその仕事はもったいないと言ってくれた人の一人は、私がうつ病になったことを告白したのだけどなあ。べらべら喋る必要はなかったと今は思っている。

「あなたにはもったいない」と言ってもらえて、私は素直に嬉しかった。満たされない承認欲求が400%くらい一気に埋まるくらいの快感を覚えるくらいには。しかしそれを聞いた友人は反論した。どんな仕事に就くかでその人の能力や幸せを計るのは間違っていると。

さらに友人は続けた。「かささぎさんにはもったいない」という言葉は、まるであなたが本当はもっと高みを目指せたのにそれを諦めて今の仕事を選ばざるを得なかったように聞こえると。そういうわけじゃなくて、かささぎさんはちゃんと自分で考えて自分で望んで今の仕事を選んだんでしょう?と。

確かにその通りだった。私は今の自分なりにやりたいこととできることをたくさん考えて、努力して、そして望んだ仕事を手に入れたのだった。

ものさしは人それぞれだ。人生で何が大切なのか、仕事か出世か、都会や世界で羽ばたくのか1か所の地域で生きるのか、家族か結婚か、学歴か一流企業か、仕事の内容が大事なのか、趣味なのか、人それぞれだ。「あなたにはもったいない」と言われ、褒められたと喜ぶのか、それはあなたのものさしでしょと怒るのか。私は人生で何度かものさしの目盛りや単位が変わったけれど、今持っている自分のものさしと、大切な人のものさしを、失くさないようにしなきゃな、と友人が教えてくれた気がする。